イベント・会議レポートイベント・会議レポート

  • 健康セミナー

健康セミナー/健康オープンカレッジ 第7回 (川嶋 みどり 氏)

認知症も和らぐ~老いの輝き~

いつまでも健康で、命あるかぎり元気に生きていきたい。それは年齢を重ねるとともに誰もが深く願うことです。8月4日(水)、6日(金)に東京サロンで行われた健康オープンカレッジ 第7回では、「認知症も和らぐ~老いの輝き~」をテーマに日本赤十字看護大学教授の川嶋みどり氏にお話いただきました。高齢社会が進むなか、元気な高齢者としていきいきと過ごすための秘訣や万が一認知症を患ったときにどうすればいいかなどの対策は、参加者の皆さんにとって、今すぐ実践できる貴重な知識となりました。


待っても頼んでもいないのに、"老い"はやってくる。


seminar07_img_02.jpg

私は長年、看護師をしていまして、今年で満79歳になりますが今も現役です。若い人達に負けずにいつでもアイデアを出しながら、24時間看護のことを考え続けて、夜中にも飛び起きて看護のことを思い出してパソコンに向かったりするような生活を続けています。
かくいう私も20歳台のときは、鏡の向こうに70歳台の自分の姿を想像することさえできませんでした。本当に老いの実感とは老いてみないとわからない、目が見えにくくなったとか、耳が遠くなったとか、いろいろあると思いますが、そういったことも、実際に体験しないとなかなかわかりません。本当に老いというのは、その兆候は、こちらが頼まないのに誰のところにでもやってきます。だからどうしても向かい合わなければいけないわけです。
しかし、私一人が老いるわけじゃなく、みなさん一緒に老いるわけですから、老いをエンジョイしながら楽しく生きるということ、元気に美しく生きるということを目指すといいのではないかと思っています。
ある詩人の言葉ですが、「命は生きるだけじゃない、より深く感じることだ」というのがあります。本当に命というのはそういうものではないかと思います。
できれば、年をとっても若々しくいたい、そして病気にはなりたくない、介護も受けたくない、ピンピンコロリで命を全うしたい、誰もがそう願っています。誰も好んで認知症になるわけでもなければ、選んでなるわけでもありません。いつそれが自分の身に降りかかってくるか、あるいは配偶者や親族の身の上にそういうことが起こるかもしれません。なるべく認知症にならないようにしたいですし、認知症になったらなったで、進行させない、症状を和らげる方法もあります。つまり、老いを知って、老いの支度をしていくことも大切なのではないでしょうか。


幸福な老いを、自ら生み出すためにできること。


seminar07_img_03.jpg

日本は世界最長の長寿国ですが、2030年になると人口の30%を高齢者が占めるようになります。しかも75歳以上の高齢者が65歳の高齢者より圧倒的に人数が上回ることになり、人生90年というのが普通になってくるわけです。そうなると、子育て後や会社をリタイアした後に人生が再スタートするといった、多様で夢のある人生設計が可能になってきます。
人生90年の時代では、できれば要介護高齢者ではなく、元気高齢者の中の1人になることが求められ、要介護にならないよう元気を先延ばしにしていくことを大事にしなくてはいけません。また、ただ単に長寿であるだけでなく、誰かの何かの役に立つ存在として生きがいのある生き方も大切です。
元気高齢者になるためのコツは、


  • ・住み慣れた住まいで暮らすこと

  • ・良く噛んでおいしく楽しく食べること(食べ過ぎないこと)

  • ・口のケアをしっかりすること(歯茎のマッサージや食後のうがい)

  • ・うつぶせ寝などで上手に良く眠ること

  • ・3日坊主にならない趣味を持ち続けること

  • ・家に隠れてしまわずに人と触れ合うこと

  • ・「ありがとう」を忘れないこと


そして明るい気持ちで笑って免疫力を高めるようにしましょう。それが幸福な老い=サクセスフルエイジングを自ら生み出すことになるのです。


人生の中の楽しい記憶が、認知症を緩和する。


seminar07_img_04.jpg

幸福な老いを生み出す努力をしていても、認知症になってしまうことはあります。認知症を患う高齢者の心理社会療法としては、回想法、リアリティーオリエンテーション、ライフレビューなどがありますが、私がやっているのは楽しく快適な思い出、自慢話を手がかりにして、記憶を再生する方法です。記憶というものは、深い体験や快適な経験は覚えやすく、より長く保存され、楽しい思い出は増幅されていつまでも心地よいままです。皆さんも、嬉しかったことや楽しかったことを子供たちや友人に語ることがあるでしょう。それをエピソード記憶と言います。また他にも長く憶えていられる記憶があって、自転車に乗れるとか、キュウリが刻めるなどの体で覚えた記憶や、赤信号を渡ってはいけないなどの常識的な記憶もそうです。この長期記憶の中でも、楽しい記憶だけを使おうといのが、私たちが実践している認知症高齢者への療法です。
たとえば、誰にでもある心の風景といえるものがあります。心に浮かんでくる楽しかった風景の記憶からキーワードを探り出して認知症を緩和することもできるのです。80歳、90歳以上の方たちであれば、子供のころに疎開した体験がふと甦ったり、子供のころの懐かしい風景が、また男性の方であれば仕事に関する記憶がきっかけとなって認知症がよくなることがあるのです。


認知症になる前に、今、私たちがしておきたいこと。


seminar07_img_05.jpg

実は、この記憶を探すのがすごく大変で、その方の思い出が何だったのかというのを、想像力を働かせながら、認知症の方の反応を見ながら探り出すのです。子供たちも配偶者も、本人の若い頃のことはわかりません。だからこそ、今のうちに、皆さんもそれぞれご自分が輝いていたころでも美しかったころでもどんなことでもいいから楽しかった記憶を、心に秘めておかないで、小さなメモにでも書いおいてください。そして「もし私が認知症になったら、これ看護婦さんに渡して」と家族に預けておいてください。
ご自身のことでも、身近な方のことでも、普段の会話の中で、「この人はこの話を何度もするから、楽しい思い出なんだろう」と意識する。そういう考えを普段から持っておくことが認知症の緩和につながります。それはまさに、人生の場と時の共有です。想像力をいかに働かせて高齢者に寄り添い、その人がどのように生きてきたか、これからどのように生きていくか、その人らしい生き方を尊重しながら探り出していくということがすごく重要なのです。


自分の存在価値を考え、他人と心の触れ合いを


seminar07_img_06.jpg

人がこの世に誕生して以来の基本的な願いは「誰かの何かの役に立つ存在でありたい」ということです。足腰が立ち、元気なうちはもちろんのこと、たとえ寝たきりになったとしても、生きていることが、子供たちや兄弟姉妹をつなげることにもなります。だからこそ、「私にできることは何か」を常に考えながら生きていくことをおすすめします。大人でなくとも幼い1歳と3 歳の兄弟であっても、弟に何かあれば兄は泣いて助けを呼ぼうとします。そこには人を救いたい、自分よりも弱い人を助けたいという思いがあるからです。ところが、今の社会では、そういう思いが乾きつつあって、他人は他人、私は私、人のことは関係ないという光景が電車の中でも見受けられます。もっと人々が手をつなぎ、つながれ、つなぎあわないと、100歳以上のお年寄りが幸せに生きていけなくなってしまうでしょう。幸せな老い、輝ける人生を考えたとき、辛いとき、悲しいとき、あるいはとても嬉しいとき、誰かに触れてもらう、誰かと心と心の触れ合いを持つことが、とても大切になるのではないでしょうか。

日本赤十字看護大学 教授川嶋 みどり 氏
健康セミナー/健康オープンカレッジ 第7回 (川嶋 みどり 氏)

1931年京城(現・ソウル)に生まれる。1951年日本赤十字女子専門学校卒業。日本赤十字社中央病院小児病棟勤務、日本赤十字女子専門学校専任教員、日本赤十字女子短期大学助手、日本赤十字社中央病院耳鼻科外来係長を経て、1971年退職。以後、卒後研修、基礎教育に携わり、2003年日本赤十字看護大学教授。現在、日本赤十字看護大学看護学教授、健和会臨床看護学研究所所長。1995年第4回若月賞受賞。2007年第41回ナイチンゲール記章受賞。著書・訳書・監修書は100冊を超える。

PAGE TOP