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健康セミナー/健康オープンカレッジ 第5回 (塩田 清二 氏)

メディカルアロマセラピーの現状と将来展望

4月19日(月)、東京サロンで開催された健康オープンカレッジでは、アンチエイジング医学寄附講座で核酸の研究をしていただいている昭和大学医学部の塩田清二氏を講師にお迎えし、日本アロマセラピー学会の理事長でもあられる塩田氏から、私たちにとっても身近なアロマセラピーについて、神経科学の視点から語っていただきました。この日は約800名を超える方々が参加し、アロマセラピーの知識と興味をさらに深める貴重な機会となりました。


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みなさんアロマセラピーという言葉はご存じですよね。言葉は知っていても、どういったものか説明できない、知識としては曖昧な方が実は多いですね。それでは、最初にアロマセラピーの定義の話をしましょう。アロマセラピーは、いわゆる主流医学ではなく、精油(エッセンシャルオイル)を用いた治療法で、補完・代替医療の一つといわれています。補完・代替医療の代表的なものに、天然の植物を用いる植物療法(フィトセラピー)があります。アロマセラピーをはじめ中国の漢方なども、この植物療法のひとつです。
アロマセラピーの歴史は、古代エジプトにまで遡ります。当時、ミイラの防腐剤として用いられたのが始まりだといわれています。現在の水蒸気蒸留法により精油を抽出するようになったのは1000年頃のアラビアです。さらに時代は進み、1960年以降にはヨーロッパ各国に波及し、フランスでは1991年まで医療保険に適応した植物療法として、ベルギーでも20~30種類の精油を保険適応の医療に使用されました。また、イギリスではエステティックサロンなど美容の世界に導入されました。その後、1985年頃から日本でも一般に流行しはじめ、医療ではなく美容のためのオイルとして日本にも精油が入ってきました。そのため日本での精油の位置づけは、医療としての効果があるにもかかわらず、医薬品でも医薬部外品でもなく、どこでも買うことができる雑貨もしくは化粧品とされているのです。

アロマセラピーの方法とその効果とは


では、アロマセラピーの方法と効果をみてみましょう。一つには嗅覚中枢効果、心理効果へのアプローチが挙げられます。匂いをかぐと、鼻の中に精油が気体となって入っていきます。すると鼻の中にある神経細胞を刺激し、脳に影響を与えます。どんな影響かというと、リラクゼーションや覚醒作用など、いろいろな働きがあります。また薬理学的効果といって、実際に皮膚に塗って、床ずれややけどなどの患部に使用することもあります。他には、医療として認められているフランスでは、服用したり、座薬や膣薬として体内に入れたりする場合もありますが、美容として導入されたイギリスや日本では行われていません。
アロマセラピーに使う精油には、ラベンダーやペパーミントなどの名前がついていますが、ケミカルに分析すると、ひとつの成分ではなく、いろんな成分からできていることがわかります。ラベンダーには鎮静作用、抗不安作用をはじめとするいろいろな生理作用があるといわれますが、どの成分が何にいちばん効くかというと、それがなかなか難しい。成分を分析しても、西洋的な薬剤とは違ってひとつの成分に効果を限定できない、複合して効果があらわれるものなのです。それは漢方なども同じです。精油には、鎮痛作用として知られるペパーミントをはじめ、頭痛や緊張、あるいは自律神経のトラブル、不眠など、さまざまな症状に有用なものが200種類以上もあります。日本では3~5%に薄めて、フランスでは10~20%の割合で使います。このように国によって違いがあり、その効果にも個人差があります。また、紫外線を浴びると皮膚障害を起こすものもあるので、使い方には注意が必要です。


匂いと神経細胞で食欲をコントロール


アロマセラピーは匂いをかぐ芳香療法です。匂い分子は、世の中に約40万種類あるといわれています。私たち人間の嗅覚は進化の過程で退化し、犬の100万分の1程度しかないといわれていますが、それでも3千~1万種類の香りを識別することができます。匂いの刺激は、鼻腔の奥にある嗅覚器へ伝わり、匂いを識別する嗅細胞、そして脳へと伝わります。脳に伝わることで、感情や行動、自律神経、免疫などへ働きかけます。
おいしい食べ物の匂いなどをかぐと、食欲が出たりすることがあります。それは匂いの刺激が脳の視床下部の摂食中枢、満腹中枢へ伝わるからなのです。マウスを使った実験を行ったところ、ティーツリーという精油を吸収させると、満腹中枢には影響なく、摂食中枢が活性化されました。つまり食欲が旺盛になったということです。ジンジャーの匂いでは、やはり視床下部の摂食中枢が活性化されることがわかりました。みなさんもおいしいものを食べたときは、その匂いとともに体の中に神経回路ができているのです。同じ匂いをかぐと、過去のおいしい記憶やそのレストランを思い出すのもそのためです。匂い分子が嗅神経をつたわって、扁桃体でスキ・キライを判断し、その情報が脳の海馬にまでいき、感情が記憶として固定され、それが匂いの刺激とともによみがえるのです。
このように解析していくと、匂いによって感情をコントロールできることがわかります。食欲不振のときにも、ジンジャーなどの匂いをかぐことで摂食神経を興奮させて食欲を促進します。逆にダイエットしたいなと思ったら、満腹神経を刺激する匂いをかぐことでムダな食欲を抑えることもできます。このように匂いと神経細胞は、脳の中で重要な働きをしているのです。


医療現場で利用されるメディカルアロマセラピー


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美容として導入されたアロマセラピーも、1990年代後半からは日本の医療現場でも利用されるようになりました。そのなかで皮膚障害などの問題があらわれたことから、精油の有効性、危険性を科学的な立場から正しく検証し、メディカルアロマセラピーとして医療従事者による医療として治療に使うことを活動目的に、1997年に日本アロマセラピー学会を発足。有効性のある治療法として研究を進め、「医療は医療従事者の満足のためでなく、患者の満足のためにある」という考え方のもと、いわゆる統合医療、西洋医学以外の補完・代替医療としてアロマテラピーの研究を進めています。
その内容は、抗感染症、抗アレルギー、鎮痛 鎮静、抗精神作用などの臨床での応用が中心となっています。また産婦人科領域では、安産のために、陣痛の緩和や、精神的な不安になったときに、リラックスできる精油を使うこともあります。他には、リュウマチ、関節炎などの整形外科領域、やけど、かぶれなど皮膚科の領域でも精油が使われています。
今後、より安全に有効にアロマセラピーを医療の現場で使っていくためには、まだまだ乗り越えなくてはいけないハードルやバリアがたくさんあります。現在は、臨床評価のガイドラインをはじめ、保険適用化、治療体系の整備など、メディカルアロマセラピーが、多くの皆さんの健康に役立てるように取り組んでいます。

昭和大学医学部 第一解剖学教室主任教授 日本アロマセラピー学会理事長塩田 清二 氏
健康セミナー/健康オープンカレッジ 第5回 (塩田 清二 氏)

塩田清二(しおだ・せいじ)医学博士。昭和大学大学院医学研究科細胞構造分野教授、昭和大学ハイテクリサーチセンター研究員、米国チューレン大学医学部客員教授。研究テーマは神経細胞死の防御、再生医学、 生活習慣病(メタボリックシンドロームに関わる)とくに摂食調節の機構解明と予防・治療法など。
アロマセラピーを医療に正しく応用する為に臨床医を中心に組織された医療従事者の全国的な研究団体、日本アロマセラピー学会の理事長。

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