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先生方の寄稿

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先生方の寄稿 核タンパクの長寿遺伝子発現に対する影響 昭和大学医学部 アンチエイジング医学寄附講座 准教授  小川 哲郎

先の日本抗加齢医学会で、寿命に関係する遺伝子SIRT1がマウスの胎生期から新生児期に体内でどのように発現し分布しているかについての研究成果を発表し、研究奨励賞を受賞しました。SIRT1は哺乳類ではアポトーシス、ストレス抵抗性、脂肪・グルコース代謝などさまざまな細胞機能の調節作用を担うことで寿命の決定に関与しており、最近特に関心が持たれている遺伝子のーつです。

胎生期の環境要因による長寿遺伝子への影響

我々は、胎生期の栄養状態やストレスなどの環境要因が成長後の生活習慣病の罹患率を上昇させるという疫学報告に注目し、マウスの胎生期から新生児期における環境要因が長寿遺伝子SIRT1の発現や老化にどのように影響するか検討を進めています。
今回、その第一歩として、マウスの発達時期における各主要臓器でのSIRT1発現を免疫組織学的に観察しました。
胎生11日から生後16日のマウスの新生児の肺、心臓、肝臓、腎臓、精巣、皮膚、脳について免疫学的手法(※1)でSIRT1の発現を観察したところ、SIRT1の発現は組織により、また観察時期により異なり、特に発生初期の胎児では脊髄神経節・精巣・肺・心臓で強い陽性反応が認められました。肝臓・腎臓・肺では胎生期に発現が強く、出生後にはその発現が弱まる傾向にありました。中枢神経では胎生期に幹細胞が存在する神経上皮や小脳外果粒層で陽性反応が強く認められましたが、その後の分化発達中の神経細胞においてもSIRT1は引き続き発現し、新生児期の脳においては各神経核の発達が陽性反応として観察されました。
この結果は、ウエスタンブロッテイング(※2)という手法によっても確認されました。これまでSIRT1遺伝子は成熟期での機能に注目がおかれていましたが、発生および発達期の機能にも注目する必要があります。今後、胎生期の環境、特に低核酸食がSIRT1の発現調節を介して生活習慣病につながる変化を誘発するかについて、また、核酸添加食がこのような障害を回復させるか検討を進めたいと思います。

  • ※1 「免疫染色」という手法。抗体を用いて、組織標本中の抗原を検出する。
  • ※2 電気泳動によって分離したタンパク質を膜に転写し、その膜を特定タンパク質に対する抗体で免疫染色する方法。

環境要因のエイジングに対する影響

機能性食品成分である核タンパクの効果を探索する動物実験では、低核酸餌とこれに核タンパクを添加した餌を与える群を設定し、両群の比較を検討しています。エイジング(加齢)の過程には餌の質(タンパク質や脂肪の含量)が影響を及ぼすことから、我々は核タンパクのアンチエイジング効果の研究を進める上で、低核酸餌が生体に及ぼす影響、すなわち、一般に使用される餌と低核酸餌との比較という観点からの研究も重要であると考えました。現在、アンチエイジングの研究では、エイジングの最も重要な原因のーつとされる酸化ストレスや長寿に有効とされているカロリー制限に関与する長寿遺伝子SIRT1の発現と機能が注目されています。
今回我々は、これらのアンチエイジング効果の指標に加え病理組織検査(※3)および血液生化学検査についても検討しました。13週齢のマウスに標準餌、低核酸餌、低核酸餌に核タンパク質12%添加をした餌を4週問自由摂取させ、主要臓器重量、病理組織検査、血液生化学検査、血清中の酸化ストレス度、抗酸化酵素およびSIRT1の発現について比較検討を行いました。その結果、血清中の酸化ストレス度が標準餌群に比べ低核酸餌群で有意に増加し、核タンパク餌群で標準餌群のレベルまで低下しました。腎臓におけるSIRT1の発現が低核酸餌群で減少、核タンパク餌群で標準餌群のレベルまで上昇する傾向を示しました。病理組織検査ではいずれの臓器においても変化は認められませんでした。また、低核酸餌群および核タンパク餌群の血清中総コレステロールおよびリン脂質は標準餌群に比べ有意に上昇し、標準餌群と低核酸餌との脂質含量の差を反映していました。低核酸餌の4週間曝露は、血中酸化ストレス度や腎臓のSIRT1発現に若干の変化を及ぼすことが考えられましたが、主要臓器に器質的な変化を及ぼすまでには至りませんでした。また本実験では核タンパク質添加によるグルコースおよび総コレステロール値の上昇は認められませんでした。より明確な影響を得るには核酸のデノボ合成が低下していると考えられる高齢マウスや老化促進マウスを用いる必要があり、現在計画を進めています。

  • ※3 細胞、組織、臓器の標本を、肉眼や光学顕微鏡などを用いて検査し、病気の原因、発生機序、診断を目的とする医学の一分野。
昭和大学医学部 アンチエイジング医学寄附講座 准教授 小川 哲郎 先生
昭和大学医学部 アンチエイジング医学寄附講座 准教授 小川 哲郎 先生
新潟大学理学部卒業。
米国インディアナ大学医学部解剖・細胞生物学教室留学。独協医科大学解剖学教室准教授。
昭和大学医学部第一解剖学教室。現アンチエイジング医学寄附講座准教授。