
アンチエイジング(抗加齢)、サクセスフル・エイジング(健全な加齢)―。
平成27年には65歳以上の高齢者人口が3,300万人を超えると予想されていることから、健康寿命(健康で自立して暮らすことができる期間)を伸ばす手立てを講じなければ、破綻の危機に瀕する医療財政や年金財政を持ち堪えることはできない。租税と社会保障負担を合わせた国民負担率は、近い将来には50%に達するという試算もあり、今後は税制と社会保障を一体化した抜本改革が不可欠となる。少子高齢社会から人口減少社会へ向かう我が国にとって、健康寿命をいかに伸ばすかが、国を挙げての重要課題であり、医学領域においても抗加齢医学は、重要な研究テーマとなっている。
抗加齢医学の診断技術と予防策、そして医療人の育成が急がれる中、昭和大学医学部に昨年10月、「アンチエイジング医学寄附講座」が開設された。同講座の主任教授、塩田清二氏(第一解剖学教室主任教授)に、アンチエイジング研究の概要を聞いた。


- 昭和大学ハイテクリサーチセンター、チューレン大学医学部客員教授を兼任。
研究テーマは、GPCRリガンドの機能解析、虚血性細胞死と再生医学
主な研究課題と今後のスケジュールをお聞かせください。
老化の原因には、遺伝子変異や細胞機能の低下、酸化ストレスの増加、免疫力の低下、内分泌機能の低下などの様々な要因が関与していると言われています。さらには、現代社会特有の環境ホルモン、病気の起源が胎児期にあるとする発生医学など、幅広い領域から老化の機序を解明していくことが、我々に与えられた課題です。
当面の研究テーマと考えているのは、酸化的ストレスと抗酸化物質のアンチエイジング抑制効果のメカニズムです。DNAを構成するA、T、G、C、この4種類の塩基の中で、最も酸化されやすいのがG(dG=デオキシグアノシン)で、酸化されると8-OHdG(8-ヒドロキシデオキシグアノシン)になります。尿中や唾液中の8-OHdGレベルを測定することで、遺伝子の損傷度合いを調べることができますので、栄養成分や食品機能素材を用いて、損傷をブロックする作用があるかどうかをある程度確認することができます。現在、研究を進めているのは、魚類の白子に含まれている核酸・核タンパクの抗酸化能です。
核酸・核タンパクについては、試験管レベルの研究で毒性の強いヒドロキシラカルによる遺伝子の酸化的ストレスを抑えることが確認されています
活性酸素には、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素などがありますが、これまでの研究では、核タンパクには、ヒドロキシラジカル、一重項酸素に対して抗酸化能を示すことが明らかになっています。我々の研究では、電子スピン共鳴法(ESR)を使って、核タンパクがどの活性酸素種に対して消去能が強いのかを明らかにしていきます。
この研究では、まずフリーラジカルを認識するトラップ剤を用いて、不安定なラジカルを捕捉して、安定なラジカルに変換してからESR法で測定します。
さらに動物実験では、脳内酸化ストレスが亢進していることが確認できますので、核タンパクを摂取させた後の抗酸化能を評価することもできます。
活性酸素以外のリスクファクターでは、どのような研究が予定されていますか。
従来の疫学研究では、成人病胎児期起源説が提示され、低出生体重と虚血性心疾患、Ⅱ型糖尿病、脳梗塞、高脂血症の発症リスクの関係が研究されていますが、本講座では、胎児期からのアンチエイジングの観点から、「胎生期の環境と個体の寿命の関係」を明らかにしていく計画です。
成人病の起源が、実は胎児期にあるという説は20年程前にイギリスの研究者が提唱している説ですが、日本では妊婦の葉酸摂取の必要性とともに注目され出しました。葉酸が欠乏すると遺伝子の発現が後天的に変化し、二分脊椎症の原因になる可能性があるというものです。
本講座では、核タンパクを混ぜた餌を与えた雌マウスと、与えない雌マウスを繁殖させて、それぞれの子供の生後発達や寿命にどのような影響が出るかを観察する実験を行う予定です。



